サスペンス・ホラー

怖い話『泣く傘』

 

一人でカレー屋にいったときのこと。

カレーを食べ終わって店を出ると、雨が降っていた。

空を見上げながら走って帰ろうか、しばらく待とうか迷っていると、店主が出てきて言った。

 

「そこの傘、持って行っていいよ。使い終わったらそのまま捨ててもらっていいから」

 

見ると、傘置きにいかにも古い傘があった。

それをさしてみた。

ところどころ錆があり、かなりボロい感じだった。

 

  • ないよりマシか -

 

わたしはその傘をさして帰路についた。

帰り着くと傘はアパートのゴミ置き場へ。

 

その夜から、シクシクと泣く声が何日か続いた。

その度、布団をかぶって眠りについたが、どうしても気になる。

 

最近変わったことと言えば、あの傘しか思い浮かばない。

 

わたしはまだ回収されずにあったゴミ置き場の傘を持って、カレー屋に向かった。

そして傘は元の傘置きに返した。

 

あの傘はあの場所がお気に入りだったのだろう、その夜から泣く声がしなくなったのは言うまでもない。

 

文章:百百太郎

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f6/photo/36667219820/62f659931d/

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