コラム

福井健策『改訂版 著作権とは何か – 文化と創造のゆくえ 』集英社新書

 

福井健策『改訂版 著作権とは何か – 文化と創造のゆくえ 』

 

最初に出版した同名の新書の刊行から15年が経過し、新たに改装版として刊行されるに至ったのが本書です。

その内容としては、「著作権」についての網羅的な知識を伝えることよりも、著作権の全体像や考え方を示すことを目的として執筆したとのことでした。

 

ところで、著作権とは「自身の創作物がどのように利用されるかを決定することができる権利」で、前提としてはその作品が「著作物」であるかどうかに掛かっているとのことです。

この基準には曖昧なところがあります。たとえば、小説の一部を切り取って使った場合、創作的と言えるだけのバリエーションがないと判断されたら、著作物に該当しないケースもあるためです。

 

著作権が知的財産権として、その権利が守られることになっていった背景には、コピー機やデジタル録音・録画技術の登場などにより、複製技術が容易になったことが挙げられます。

これにより、オリジナルである作品を作った人に対して、一定の権利を与える方向へ進んだわけですが、これは一般人でさえもが、創作者に対して作品を生みだすインセンティブを与えも良いというような気運に繋がっていきました。著者によれば、これは「インセンティブ論」として、既に確立された考え方とのことです。

 

また、本書の中で実際に著作権が争われたところの「パロディやアプロプリエーション(流用、盗用)」の問題について、具体的事例を挙げて説明を施していました。

その他、著作権の保護期間についても、一章を費やして説明していました。

 

さて著作権が切れると、これまで独占的に守られていた権利が消滅します。

国によっての違いは見られますが、原則は「著作者が死亡した翌年から70年後」と定められているようです。

この絶大なる権限を利用したい業界団体が、著作権の有効期限を延長させるためにロビー活動(アメリカ)をしました。その結果、法改正が行われ、成果として欧米では著作者が90年に延びたことも指摘していました。

 

著作権で守られる期間が長くなれば、たとえば、ある有名キャラクターを手がけているところには、莫大な利益が転がり込んできますね。

また、独創的な作品と主張できる芸術性のあるものを作った当人だけが、著作権の恩恵を受けられるわけではなく、その権利は往々にして会社に帰属することもなり得ます。

 

『第6章 「反著作権」とその表現の未来』では、創作物を著作権の視点から捉えるのではなく、創作物そのものを、知的共有財産として、「公共財」に位置図けて扱うべきだとする意見もあるようでした。

 

文章:justice

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