友人の祖父の話。
友人の祖父は、瀬戸内海の小さな海辺の町に住み、果樹園を営んでいる。
それとは別に、小舟で魚をとっては、通りで露店を開いて、小銭を稼いだりもしていた。
ある時、いつものように魚を獲ろうと小舟を漕ぎ出していると、コツンと何かにぶつかった。
それは水死体だった。
祖父はそれを引き上げて小舟に乗せ、一旦、船着き場に戻ろうとした。
すると、急に櫂の自由が利かなくなった。
‐ 櫂に何かが絡まっている? ‐
海の中を覗いてみると、そこに女がいた。
櫂にしがみついて、海の中からジーッとこちらを見上げている。
それはまるで、「持っていくな」とでも言いたげだったという。
押しても引いても櫂がびくとも動かない。
祖父が思わず、
「仏さんをちゃんと弔ってやらんとかわいそうじゃろ!」
と怒鳴ると、女は櫂を放し、その影は海の底へ消えていったという。
祖父は言った。
「あれは何じゃったんじゃろ?もしかしたら人魚じゃったんかのう?」
文章:百百太郎