第一章:知的障害の診断を受ける
石上優は三歳のころに知的障碍の診断を受ける。成人してから診断を受ける者もいるため、早期発見といえるのではなかろうか。
知的障碍の早期発見のメリットは、幼少期から支援機関のサポートを受けられること。成人になってから診断を受けた場合、一匹狼状態で社会に放り出されることになる。知的障碍者の能力ではついていくのは難しい。
デメリットは知的障碍者ということで、一般人と同じ学校に通えなくなること。障碍者ばかりの社会に身を置くことで、一般感覚を養いにくくなってしまう。価値観の共有を必要とされる日本では、致命的になりかねない。
知的障碍を知らない人のために、簡単な説明を付け加える。知的障碍とは軽度、中度、重度とある。一番軽いといわれている軽度であったとしても、小学六年生くらいのことしかできない。中度は小学三年生、重度は小学一年生くらいのレベルとなる。
知的障碍者は療育手帳を取得する。県によって基準は異なるものの、おおむねIQ70~75程度がボーダーラインといわれる。等級は都道府県によって異なり、3~5種類ほどに区分される。重度になればなるほど、判定は重くなる。
知的障碍の診断を受けたとしても、障碍年金を確実に受給できるわけではない。軽度知的障碍者は就労可能なレベルと思われているのか、障碍年金は支給されにくい傾向にある。中度、重度であった場合は障碍年金が支給される確率は高い。
軽度知的障碍であったとしても、一般就労は非常に厳しい。IQ70というのは健常者の半分くらいの能力。仕事をまともにこなすのは物理的に不可能だ。一般枠で入社した場合、数日の解雇も現実味を帯びる。
軽度知的障碍者は、障碍者の中での立ち位置は一番厳しくなる。年間で80万円以上といわれる障碍年金はもらえないうえ、一般就労も容易とはいえない。二つの状況下で板挟みとなる。
福祉予算を節約しなければならないとはいえ、知的障碍者は一括で障碍年金を受給可能な制度を整えてほしい。知的障碍者でまともなお金をもらえる人はほとんどいない。
優は一般学校に通いたいと思っていたものの、両親は願いをかなえてはくれなかった。障碍者に対するいじめは後を絶たないため、守ってもらえる環境に身を置きたいようだ。
知的障碍者のいじめというのは後を絶たない。物理解の悪いことを利用し、徹底的にいたぶる連中は一定数存在する。
特別支援学校では知的障碍者だけでなく、一部の精神障碍者、身体障碍者なども一緒だった。重い病気を抱えているために、健常者と勉強を共にするのは不可能と判断されたのだろう。
特別養護学校というだけあって、全体の出来は悪かった。低レベルの人間のみを集めた世界を思い知ることとなった。
優は知的障碍者間における、差について思い知らされた。知的障碍とひとくくりにされていても、大きな差があるのを思い知らされた。
優は中学、高校も支援学校で過ごす。一般人と同じ環境で勉強したいという夢をかなえることは最後までできなかった。
高校を卒業すると、進路について考えなくてはならない。本来なら一般企業で働きたいけれど、能力が劣っていたためにできなかった。学校の通学と同じく、能力で弾かれる格好となった。
優は一般就労の難しいといわれる障碍者の集まる、B型作業所に通所している。一日六時間ほど作業し、月の工賃は二万円ほど。時給に換算すると一八〇円くらいにしかならない。全国で一番安い都道府県の最低時給であっても七九〇円(2020年9月現在)となっており、四分の一にも満たない金額しかもらえていない。
月に二万円の工賃をバカにされるかもしれないけど、B型作業所にしては平均を上回っている。全国の平均工賃は一六〇〇〇円前後となっており、20パーセントほど多くもらえる。作業所によっては、月で三〇〇〇円というところもあるため、待遇は最低レベルではない。
優の通所するB型作業所では、施設外就労を行っている。作業所内よりも難しいことをするものの、もらえる金額は増える。施設外で働ける障碍者はこちらに出向し、月に六万~七万円ほどのお金を手にする利用者もいる。この金額は最低時給の保証されているA型作業所に匹敵するレベルとなる。作業所では利用者が一円でも多くもらえる体制を整えている。
施設外就労は能力の高い利用者を優遇する一方、知的障碍といった障碍者へのみせしめともなっている。優のように施設外就労できない利用者は、毎日のように歯がゆい思いをしなくてはならない。障碍者の待遇を平等にしてほしいと切に願う。
次回へ続く
文章:陰と陽