そのお爺さんを初めて見たのは、わたしが幼い頃の真夏のある日、母の買い物に付いて行った時のことでした。
地下道を母と手をつないで歩いていると、脇にしゃがみこんでいるお爺さんがいました。
子供ながらも、そのお爺さんに誰も声を掛けないことを変に思っていました。
- 暑いから日陰で休んでいるだけなのかな? -
そう思いながら、そのお爺さんを見ていると、
「ジロジロ見るんじゃないの!」
そういうと、母はわたしの手を引いて、足早にその場を離れました。
そのお爺さんは、わたしが小学生、中学生となってもちょくちょくその界隈で見かけました。
その度にわたしは、あの時の母の「あんまりジロジロ見るんじゃないの!」という言葉を守って、お爺さんへ視線を送らないようにしていました。
年月が経ち、母も父も年老いて亡くなり、わたしもすっかり高齢となった今でも、そのお爺さんはあの時と変わらぬ姿で、その界隈を徘徊しています。
文章:百百太郎