初めに、酒は精神に作用する薬だ。薬だったら服用の仕方がある。今回は飲み手の都合ではなく提供側の都合を説明する。
『ウィスキー』を使った『ハイボール』がアルコール飲料の中でブーム以上の人気があって、家飲みから個人経営の飲み屋、そして大規模居酒屋チェーン店まで全国津々浦々まで普及している理由が蒸留酒ベースで酔い覚めが良いためだ。糖質0かほぼ0、他のアルコール飲料に比べて、低カロリーと色々理由があるのだが、飲食店がハイボールをメニューに入れる理由を調べてみても述べられている所がないので書く。(文中のハイボールとはウィスキーと炭酸水で作られたものとする)
ハイボールを『サーバー』で作るのは楽で、保守点検も楽
ハイボールをサーバーで作るのは簡単だ。グラスやジョッキに氷を入れサーバーの取手を操作して注ぐ。レモン果汁や適当に切ったレモンやレモンピールを入れて客に出す。レモン等は入れずに出すことも可能。アルコール濃度もサーバーによるが簡単に変えられる物もある。
作る人間によって味の差異もほぼ無視できる水準でクオリティーは保証される。またハイボールサーバーで提供されるハイボールの味に関心を持つ客は極めて少ない。味より値段とアルコール度数しか見ていないと言って過言ではない。『チュウハイ』ほどではないが。
チュウハイをサーバーで作るのも、プレーンやレモンチュウハイなら注いで出すだけで済むが、その他の味のチュウハイを作るには果汁やシロップ入れなければいけない。生絞り果汁なら、客の前で果物を切って、絞り機で果汁を絞ってチュウハイに入れて混ぜなければいけない。
味も、プレーンやレモンチュウハイなら統一されているが、他の味は素材や作る人間によって変化し、安定しないが味よりも値段で飲む傾向が強い。(メニューを見れば判るがチュウハイより安い酒は安い焼酎か安い日本酒ぐらいしかない)
『ビールサーバー』で提供されるビールは、注ぐ人間によって味が変わる。飲む人間の気持ちの問題ではなく事実、味が変わる。店にビール会社認定の認定証を掲げている所があるが、あれは最低保証であるに過ぎない。同一のタンク、同一のサーバー、同一のグラスで在りながら、注ぎ方で味を何種類にも変えることのできる技術の持ち主は存在する。これは注ぎ手の能力の高さを表すもので、注ぎ手の技術目当てに客がやってくる位の集客力を持つ。
ハイボールサーバーの保守点検は、ビールサーバーに比べると極めて簡単だ。ビールサーバーの保守点検は、大変でいい加減にすると、ビールが不味いすえた匂いのする物になる。具体的に言うと『ビール酵母』で造った栄養補助食品の様な感じになる。ビール酵母サプリメント風味のビールは、見たことも聞いたこともないし、それを好む人間にも会ったこともない。(酵母とは極論すればカビなので野性味あふれる土臭い、泥臭い、酒は存在し美味しいが飲み手を選ぶ。ビールでその手の物はない)
チュウハイサーバーもビールサーバーよりは、保守点検が楽だがハイボールサーバーよりは手間がかかる
人件費と人材育成の問題
飲食店は、個人経営から大規模チェーン店まで人材不足で運営している、個人経営なら店主、小規模店なら店長、大規模チェーン店なら、店員は店長だけがまともな人材で、戦力はそれぐらいしかなく、後はパートタイマーかアルバイトである。パートタイマーやアルバイトに、飲食店員としての能力を求めるのは間違っているし、店は人材育成をする能力もないしするつもりもない。
安く過酷な雇用条件で、能力的に複雑高度な事をすることが難しい人材で、店舗運営をするには作業の単純化と効率化をしなければならない。
ビールを上手に注ぐことが出来て、ビールを注ぐこと自体に集客力が発生する人材はすぐに独立開業してしまうだろう。これは、その人材の独立開業の意思が高いと云うわけでなく、能力に見合った給料を店が支払うことがほぼないからである。給料と能力、忠誠心は比例する。
チュウハイは、誰でも作れるが単価を上げるために生絞り果汁やフローズン等付加価値を付けていくと、作業量の増加と複雑化を招き本末転倒になってしまう。チュウハイは、チープさやジャンクさが魅力なので、客も高付加価値チュウハイを何杯も飲むことは少ない。
また不味く飲んでいると、格好が悪いとされていた焼酎を、何とか飲むために考案されたチュウハイを、高付加価値商品にするよりプレミアム焼酎を売った方が良い。(ここではプレミアム焼酎を1杯千円前後の物とする)
焼酎が不味い臭いから素材の味がする、いい香りがするに世間の認知が変わっても、ストロング系チュウハイ等が安く手っ取り早く酩酊するための道具として認知されているため、焼酎の地位は上がってもチュウハイの地位は上がらない。つまり努力しても、あまり単価は上がらない。
ハイボールは、チュウハイより簡単に作れて味のバラツキが少なく、大手アルコールメーカーが力を入れている。キャンペーン、広告を沢山流しているので店が宣伝する手間が省け、メーカーが店に色々と力を貸してくれるので楽が出来る。ビールやチュウハイに比べて、簡単に作れて保守点検が楽で人件費を圧縮できる。
チュウハイからプレミアム焼酎に、客を誘導することは難しいが、ハイボールからウィスキーに誘導することは比較的簡単だろう。ウィスキーのストレートやロックが合わなくても、ハイボールはカクテルなのでウィスキーベースカクテルへの誘導も可能なはず。客がウィスキーの味を覚えていくと、どんどん客単価が上がり利益率が跳ね上がる。
まとめ
ビールよりも簡単に作れてチュウハイよりも単価が高く、その後の発展性のあるハイボールは、サーバーの保守点検が他を圧倒する容易さ等で、店舗運営の低コスト化に大いに寄与する商品。大手アルコールメーカーの支援を受けやすく、過去20世紀中盤にもハイボールブームが在ったことと、21世紀のハイボールブームも10年以上たちブームから定番に変わったことで、先が読みやすい店にとって危険の少ない商品になった。
ウィスキーの供給能力の問題もあるが、外国製を輸入できるウィスキーと国内生産で賄わなければいけないプレミアム焼酎や、新型コロナの影響で経営が苦しい小規模『クラフトビール』メーカー、日本酒メーカー。ブームと言われているが実感のない『クラフトジン』に比べると経営者としてはハイボールサーバーを置くしかない。
追記
アルコールは、共感性を高める効果があるので酒を適量飲んで人と話すと、対人能力の経験値が上がり易くなるかもしれない。手軽に精神を拡張できる便利な物。
文章:北山南河