孝雄の二つの瞳に、鎌を持っている透明女が現れた。アニメでよくみる亡霊さながらだった。
孝雄が驚く間もなく、亡霊は二つの目を光らせた。
「お前に不幸になるおまじないをしてやろう」
亡霊は透明の巨大鎌をこちらに向けて振り下ろす。孝雄はかわそうとするも、お腹の回りを直撃した。
実物でないだけあって、痛みを感じることはなかった。事実、一ミリたりとも出血していない。
亡霊は任務を果たし、ニヤニヤとしていた。他人の不幸は蜜の味らしい。
「お前に災いが降りかかるだろう」
どんな不幸なのかを聞く前に、亡霊は姿を消していた。実体がないだけあって、どこにいったのかわからなかった。
家から一歩も出なければ、災いが降りかかることはない。亡霊の悪事をあざ笑うために、室内に閉じこもることにした。
一時間経過、何も悪いことは起こらなかった。孝雄はさきほどの現象が幻だと思うようになった。
外出するために、室内の扉を開ける。彼の家の前には、さきほどの亡霊が立っていた。
「おぬし、我の言葉を信じなかったのか。それならしょうがない。おまえにちょっとした不幸を授けることに・・・・・・」
孝雄は一直線に駆け出していた。亡霊の言葉に聞く耳を持つ必要はない。
数秒後、階段で躓いた。幸雄は地面に膝を打ちつけてしまった。その様子を見た亡霊が近づいてきた。
「あたしを信じていなかったみたいだな。不幸が降りかかるから忠告してやったというのに」
亡霊が鎌を振り下ろすと、擦りむいたはずの皮膚が元通りになっていた。孝雄は力を持っていることを確信した。
「お前の一日の不幸はこれで終わりだ。思う存分、楽しんでくるといい」
亡霊の加護に守られていたためか、人生で最高の一日を過ごすことができた。
文章:陰と陽