藤原綾香は宝くじで一等を当てた。彼女の目の前にはトランクケースに入った三億円が置かれている。
綾香は本物なのかを確かめるために、一〇〇万円の束を掴んでみた。紙の薄さ、印刷具合からまぎれもない本物だった。
人間は一度に大金を手にすると、金銭感覚がマヒしてしまう。彼女はこれまでの鬱憤を晴らさんばかりに、あちこちでお金を使いまくった。綾香の金遣いの荒さは、あちこちで評判となった。
半年としないうちに、残金は一〇〇万円を切っていた。彼女は金銭が無限でないと知っても、金遣いの荒さを改めることはできなかった。人間は一度ついてしまった、癖を治すのは容易ではない。
大富豪気分から抜け出せない女性は、闇金で借金を抱えることとなった。借金は百万、二百万と増えていき、一年としないうちに一億円に達していた。
仕事を辞めていた女性にお金を返す当てはなかった。借金の支払いに困ると最終手段に出た。警備員が大金を運搬しているところを狙い、窃盗事件を働いた。
数日としないうちに実行犯であることを割り出され、綾香は警察に逮捕されてしまった。宝くじで一等を当てたばっかりにどん底に転落することとなった。
一年前は天国だったのに、どうしてこうなってしまったのだろうか。綾香は事情聴取を受けながら、そのようなことをに考えていた。
文章:陰と陽