コラム

ショートショート『働きたくない男の考え方』

 

 直樹は心の声を小さく呟いてみた。

「日本全国の人間が一円ずつ寄付してくれれば、一億二千万円になるのに。どうしてそうならないのかな」 

  実現可能ではあるものの、現実はそのようにならない。働いている会社、親族を除くと、お金を渡してくれる人間はいない。

 楽をしようと考えていると、母から横槍を入れられた。

「そんなことをいっていないで、とっとと仕事に行ってきなさい。早くしないと遅刻するよ」

 直樹は覇気のない返事をする。仕事に対するモチベーションは、地を這うような低さだった。

「わかったよ。仕事に行ってくるよ」

 たった一万円を得るために、八時間以上の束縛を受ける。会社の利益を生み出すために、安い労働力としてこき使われるのはもうこりごりだ。

 一攫千金を狙って、年末ジャンボ宝くじを買ってみようかな。一等を当てることができれば、一生お金に困らなくてすむ。今年度は奮発して百枚くらい購入してみよう。十万円しか当たらなくても、半月くらいは遊んで暮らせる。

 ギャンブルをやるのもいいかな。数百円だけ馬券を購入し、倍率の高い馬にかけてみる。予想が的中すれば、大金をゲットできる。

 路頭で募金活動をしてみるのも面白い。一日やれば一万円に届くかもしれない。夏は酷暑、冬は冷たい風に晒されるものの、会社で嫌味を言われ続けるよりはずっといい。

 帰宅したら、楽をしてお金を稼げる方法をインターネットで検索してみようかな。死ぬまで、他人にこき使われる人生は絶対に嫌。労働にいそしむことなく、生きる道を絶対に諦めない。

 

筆者あとがき:「労力を他に使えよ」。そう思わずにはいられない作品を目指しました。

 

文章:陰と陽

関連記事

  1. 戦後の精神保健医療福祉の年表(主に統合失調症が対象)を作成した雑…
  2. 「理性」というもの
  3. エッセイ:『Dad’s complaints(おじさ…
  4. コラム:『庭園にて』
  5. ショートショート『天才を採用した末路』
  6. アイザィア・バーリン『自由論』
  7. 魔法少女という名の時限爆弾
  8. 小説:『出会いはどこから転がり込むかわからない 下』
PAGE TOP