『ある野球女子の栄光と挫折 – 男子と同じ土俵で勝負したかった』
纏はソフトボール部に所属している。
小学校時代は野球部に籍を置いていた。球速も小学生にしてはずば抜けており、110キロ前後を計測していた。監督からは将来のエースなどともてはやされていた。
自分の腕に絶対的な自信を持っていたため、中学校においても野球部を続けようとするも、夢を叶えることはできなかった。
纏は野球部の顧問に入部を懇願する。三〇代の男性は渋い顔をしながら、バックネット裏で練習を見るように指示を出した。あなたには無理です、と直接いうのは躊躇われたのだろう。
バックネット裏から練習の姿をみつめると、顧問の発言の真意を理解した。入部したばかりの部員ならまだしも、三年生ともなると体格が明らかに違った。骨格筋などを直接見なくとも、自分より数段上の世界にいるのを悟った。筋肉の付き方が異なる。
ピッチャーの投球練習を眺める。補欠と思われる投手ですら、纏より速い球を投げていた。小学生時代に一番手だった女性は、ここにおいては相手にされないレベルなのだと、身をもって思い知らされた。
圧倒的な身体能力の差が、走力についても現れていた。女性は小学生で頭打ちなのに対し、男子は中学生になってから劇的に伸びる。小学校ではどうにかついていけても、中学生ではまるで歯が立たない。
バッティング練習もすさまじかった。カキーンと金属音がすると、打球はあっという間にフェンスを越えていった。纏は小学校時代、フェンス越えを放ったことは一度もなかった。
纏は最終的にソフトボール部に入部することにした。本意ではないけど、球技にかかわるためにはここしか居場所がない。
男子に生まれていたら野球を続けられていたのかな、そのようなことを考えながらソフトボールの練習に取り組んでいる。
どんなに好きだとしても叶わないことがある。心が成熟しきっていない女性は、どんなにもがいても届かない世界があることを知ることとなった。
文章:陰と陽