コラム

ショートショート:『うさんくさい男』

 

インターホンが鳴った。

 

ドアホンの画面を見ると、伊勢丹の紙袋のようなチェック柄のスーツを着た男が立っていた。

見るからにうさんくさい。

 

「**荘をお持ちじゃないですかぁ」

と満面の笑みで話してくる。

**荘を所有しているのは親戚で、うちではない。何かしら情報を間違って得たのだろう。

売却を勧めに来た不動産屋かと思った。

 

「いや、うちじゃないですね」

親戚のことは伏せておいた。

 

その場は追い返したものの、その後なんどもそのセールスマンはやってきた。

 

「お墓のご準備はいかがですかぁ」「外壁の塗装がはがれてますね」などなど、

その時ごとに売るものが違う。いったい何なんだと訝った。

 

いろんな業者が外注した営業を一手に請け負う会社なのか。

そんなものがあるというのか。

 

その後ピタッと来なくなったと思ったら、その男がテレビで漫才をしていた。

伊勢丹の紙袋のようなスーツを着て。

 

 

文章:増何臍阿

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/5067641120/87fc7fd47b/

 

関連記事

  1. 働かざる者喰うべからずっていうけどね
  2. 第73回三段リーグも大詰め
  3. ショートショート『幸運をもたらす亡霊』
  4. 中島義道『ウソつきの構造 法と道徳のあいだ』角川新書
  5. 女尊男卑でもないと思うが?
  6. 千代丸、英乃海が休場後に土俵復帰
  7. ラーゲルクヴィスト『バラバ』のご紹介
  8. エッセイ:『ある愚考のひとつのかたち』
PAGE TOP