コラム

コラム:『庭園にて』

 

大通りを歩く。辺りには通行人に踏みつけられた銀杏の実が、強い匂いを発している。

駅前ビルの方へとわたしは向かった。

 

すこし肌寒い。

 

都会の憩いの場としてつくられたらしい「庭園」と称されたスペースに、ぱらぱらと

まばらに男たちがいて、スマホや本を手にしていたり寝ていたりする。

 

男たちはみな独りでおり、それぞれが適度な距離をたもっている。

楽譜屋が開くまで時間がある。わたしも男たちの群れに混ぜてもらうことにした。

 

土曜の、朝遅い時間。空はしだいに曇ってきている。

 

喧噪のエアポケットとしての、都会の憩いの場。それは、家族連れやカップルなどの入る余地のない、おとこたちのやすらぎの場所となっている。

 

実際、まるでここに入るのに「暗黙の資格」とでも言いうるようなものが必要であるかのようだ。男であること、孤独であること、疲れていること、等々。

 

この「庭園」がつくられた当初はそんな属性を限定するような意図はあったわけがなく、自然とここを利用するものたちの属性が形作られていった、とでもいうかのようなのである。

 

庭園とは、消尽されたもののためのある種の理想の楽園であったのだ。

 

 

文章:増何臍阿

 

画像提供元 https://visualhunt.com/f7/photo/14894782238/859712a652/

関連記事

  1. コラム:『これからの医療者』
  2. 病んだ社会
  3. 菅野仁『友だち幻想  人と人の〈つながり〉を考える』ちくまプリマ…
  4. 小説:『純喫茶』
  5. 最近話題の「ChatGPT」を使ってみた。
  6. 映画『草原の実験』のご紹介
  7. ウェルビーイング
  8. 叔父の孤独死

おすすめ記事

京阪電車が9月25日に大胆なダイヤ改正を行う

 京阪電車が9月25日にダイヤ改正を実施 京阪電車はアフターコロナを見据えたダイ…

『耐えながら…』

痛みに耐えながら…前には、進めるのだろうかぁ?でも…それしか無いなら…仕方ないよ…

第六天の魔王

生命と宇宙の大法則を解き明かした仏法です。仏典に、…

怖い話『音が鳴る』

わたしが学生時代の話。ある夜、下の階の先輩の部屋から、珍しく音楽が聞こえてきまし…

京阪電車の快速特急、特急の所要時間短縮

 京阪電車において、2021年1月31日にダイヤ改正が行われます。…

新着記事

PAGE TOP