「しけてんな」、が口癖の友人がいました。
といっても文句垂れというわけではなく、なごむ感じの物の言い方でした。
なにか、世の中のたいていのことはしけている、ということを常々確認しているような感じでした。
時と場所はかわってとあるミニコンサートに行ったときのこと。
出演した音楽家は超有名アーティストとかではなく、実力ある演奏家を多く育ててきた、実績ある指導者でした。
ミニコンサートなので、客は二十人足らず。
そんななか、わたしの前に座っていた若い女性が、ぽつりとつぶやいていました。
「最近、うるおいないわ」
今このコンサートが潤いじゃないか!と、それを聞いたときはちょっと憤慨したりしました。
しかし、うるおいなんてもんはそうそうない、たいていのことはしけているのだ、と考えれば、そんな発言に怒るというのもヤボなことです。
「なにかいいことないかな」なんてつぶやいたり、あるいは誰かがそうつぶやくのを聞くのは本当によくあることです。わたしもありますし、あなたもたぶんあるでしょう。
でも、そんなのはあまり意味がないことです。
人生は、ほうっておくとどんどん悪いほうへと深みに入り込んでしまいかねないところがあり、それは、つまるところ死が避けられないことにつながっています。
人生が涙の谷であり、楽しい幕間がちょろちょろと顔を出すものだというのは、否定できません。
しかし、どんなに悲惨なことがおきても上を向いて明日を生きることができるのが、人間の強さであり普遍的なあり方です。
しけてんな、という確認は、実のところ生きていくうえで役に立つ捉え方なのではないでしょうか。
文章:parrhesia
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