コラム

ショートショート『心を満たす人』

 

 心を満たしてくれる人は希少なのか、滅多に出会うことはない。一生に一度あればいい方といえよう。

 桜はこれまでの人生で一人しか出会っていない。他の人がどんなに親しく、優しくしても、あの人よりは格段に劣っていると思ってしまう。 

 心を満たしてくれる人は手の届かないところに行ってしまった。どんなに伸ばしたとしても、指一本振れることすら叶わない。生きているうちに、顔を合わせる機会もないと思われる。

 人間の記憶は、時間の経過と共に薄れていくもの。心を満たしてくれる存在のはずなのに、どのような声だったのかを完全に思い出すことができない。透き通っていたのをかすかに覚えているだけだ。

 顔を思い出すために、学校時代の卒業アルバムをそっと開いた。心から本当に必要としてくれていたその人は、他人に向けて笑みを向けているように感じられた。一度でいいから、自分にも同じようにしてほしかった。

 卒業アルバムをそっと閉じる。いつまでも過去に捉われていてもしょうがない。これから出会う人間を大切にしていけるといいな。

 

文章:陰と陽

関連記事

  1. バスの中で酔っ払って寝る
  2. 続・懸賞小説の話
  3. SNSとかいる?って言ったら袋叩きにされそう
  4. オースター『最後の物たちの国で』のご紹介
  5. 一人の若者が太宰治について思うこと
  6. ショートショート『無謀なチャレンジ』
  7. ガブリエル・ガルシア=マルケス著『百年の孤独』鼓直訳
  8. 自分の身は自分で守ろう

おすすめ記事

『願い』

どんなに願っても どんなに望んでも 過去は消えない。 過…

【4コマ漫画】ロボのケンと丈司少年 第十五話『七夕に願いを』

『七夕に願いを』関連漫画 第一作『少…

【夏の甲子園】大阪勢が夏2連覇!

 夏の甲子園決勝が行われ、履正社が星稜に5対3で勝ち、春夏で初の栄光を勝ち取った。…

『見てくれてる人』

不安だらけで進む道。その中で上手くいかないことも出てく。&n…

『楽に過ごせるんだ!』

朝が来て…仕事の準備して…職場に着き…&…

新着記事

PAGE TOP