コラム

『ザッヘル=マゾッホ紹介』(河出文庫)ジル・ドゥルーズ著、堀千晶訳

 

ドゥルーズ研究で知られる國分功一郎氏がvimeoというプラットフォームで動画を公開しており、その中で紹介されていたのが本書です。

https://vimeo.com/philosophienoire

 

マゾヒズムの語源となった作家ザッヘル・マゾッホをフランスに紹介する本で、ドゥルーズの長い前書きの後にマゾッホ作品が続く構成となっています。

 

サドマゾという言葉から思い描く通俗的な概念とは全く何の関係もなく、マゾッホというのは文化主義的な、大地や神話を信仰する、温かい土着的な、国民から賞賛される、銅像の立つような作家であると國分氏は言います。

 

1960年代の時点でマゾッホはフランスで知られておらず、現在に至るまであまり読まれていない作家でありながら、ドゥルーズはその重要性を強調し知らせるために本書を書いたようです。

 

今なぜマゾッホなのかというと、彼が現在のウクライナ・リビウの出身であり、オーストリア・ハンガリー帝国やポーランド、ロシアといった国々から翻弄され続けてきたガリシア(ガリツィア)地方に生まれた作家だからです。

 

國分氏によれば、マゾッホの戦略は、全てを受け容れることで権力を脱臼させるというところにあるようです。

 

本書ではアイロニーユーモアという概念が提示されます。

第二義的なものとしての「法」よりも高次の絶対的なもの(イデア)が悪であることを見抜いたうえで、アナーキーによって法の乗り越えを行うアイロニーに対して、法の厳格な遵守、処罰とその苦痛を被ることを通じて、適用される際のズレ、すなわち法により禁じられた快楽を獲得しようとするユーモアが対置されます。

 

ロシアのウクライナ侵攻という許されない暴挙の時代に、いまアクチュアリティーを獲得して読まれるべき作家となったマゾッホを紹介する本書は、これからの世界を真剣に考えるうえでその良き入口と言えるのではないでしょうか。

 

 

文章:増何臍阿

関連記事

  1. 自身を磨こう
  2. 補修が必要
  3. 自分を責めるのはよそう
  4. 短編小説 : 『縮まらない距離』
  5. 物語の一巻目を簡単に解説! 第一回【シャドーハウス】
  6. 本当の豊かさとは?
  7. 便利も過ぎると困る
  8. 『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』【感想】

おすすめ記事

8/2付け尼崎市プレスリリースで「あまうめ城っぷ」が紹介されました。

8/2付け尼崎市プレスリリースで「あまうめ城っぷ」が紹介されました。タイ…

第4回☆世界の国と国旗(アフガニスタン編)

皆様こんにちは!桐谷 凛花(きりたに りんか)です。&nbs…

ハードセルツァー『DOSEE(ドゥーシー)』:3種類の紹介と飲んだ感想

 オリオンビールが発売する日本初のハードセルツァー(アルコール入り炭酸水)のDOSE…

『悩みがない人…』

悩みがない人なんてこの世にはいない。それぞれに苦しみにもがきなが…

世界の国と国旗☆第95回目 ソマリア連邦共和国

出典:©Copyright2023 世界の国旗.All Rights Reserved.皆様こん…

新着記事

PAGE TOP