コラム

小説:『純喫茶(2)』

 

前回まで

小説:『純喫茶』

 

前回からの続き

男は地道に働き、実直に生き、年を重ねた。

 

重い病にかかったことがあった。男は彼を慕う部下たちが見舞いに来てくれたことをとても喜んだ。

 

長い介護の末に母を見送り、自身はこれまでに貯めたお金で高齢者施設に入ることを決めていた。

 

定年退職の日を迎えた。

 

あの高層ビルが再利用され商業施設がリニューアルオープンすることを、男は新聞か何かで知った。

 

男の勤め上げた会社のかつての取引先の経営者がその開業に大きく関与していた。

その経営者は交通事故を起こして死んだ。

多数の死傷者を出した。

新しくできる商業施設ではその男の追悼行事があるという。

 

なぜかしら、ふと純喫茶のことを思い出した。

 

メトロに乗って、あの界隈に来た。

地上にでると、強い日差しが照りつける。

のしかかるような暑さとけたたましい蝉の鳴き声に軽いめまいを覚えた。

 

 

 

 

あの店はもうあるはずもないと思い乍ら男は歩いた。と同時にひょっとしたらという期待も淡くこころに浮かんでいた。

 

公園から小さな子供たちの遊ぶ可愛らしい騒ぎ声が、お母さんたちの談笑が聴こえてきた。

 

あの角を曲がって、高架下を行って、、、、、。

 

 

 

あの純喫茶はあった。驚きでいっぱいだった。

 

若い女性店員がおしぼりと水を持ってきてくれた。

男はブルマンを注文した。美味い。

 

店をでると一降り来そうな空模様だった。

どうしたものかと思案していたら、女性店員が出てきて、

「他のお客さんが置き忘れていった傘がたくさんあるので持っていってください」

と言った。

 

丁重に断ろうとしたが、その女性に押し負けて、もらうことにした。

うれしさでいっぱいになった。

 

 

つづく

 

文章:増何臍阿

 

画像提供元:https://foter.com/f6/photo/17185247172/9d03739528/

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