コラム

小説:『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(2)』

 

前回まで

・『借金を完済した直後にあの世に旅立った女性は異世界に転生(1)』

 

前回からの続き

 

魂が飛ばされた直後、アヤカは尻もちをついてしまった。

 

「イタタタタ」

 

 幸いにもケガはしていないようだ。アヤカはすぐに立ち上がることができた。

 

 周囲は草、木といった、自然で溢れかえっていた。都会のようなビルは一軒も立っていなかった。

 

 木の看板を見つけたので、何が書かれているのかを確認した。

 

「緑の村にようこそ」

 

 いかにもって名前が付けられている。この村にふさわしい名前といってもいい。

 

「古野彩佳」と記されている家が建っていた。私はここで生活することになる。

 

 家の中を確認すると、一人で住むには十分すぎるスペースがあった。この家で第二の人生を楽しんでいこう。

 

 寝室に用意されているベッドを見つける。アヤカは横になると、そのまま睡眠の世界に魂を預けることとなった。仕事ばかりの日々を送っていた、現実世界では考えられなかった生活だ。父の借金を返すために働いているとき、このような生活を夢見ていた。

 

 アヤカが目を開けると、日が暮れ始めていた。長時間にわたって眠っていたのかもしれない。

 

 夕食の準備をしたいところだけど、家に食べ物はなかった。食料を調達しなければならない。

 

 アヤカは自分の財布の中身を確認する。中身は何も入っていなかった。これでは食料を調達することはできないではないか。最初からお金を持っていないなんて、厳しすぎるのではなかろうか。

 

 緑の村についての情報を何も知らない。アヤカは情報収集のために、街に向かうことにした。

 

 街までは徒歩で一〇分ほどだった。簡単に往復できるように、家から近くしているのかな。

 

 街にはスーパー、薬屋、外食店などがあった。ここについては現実世界と同じのようだ。

 

 街をうろついていると、「お助け屋」という店を発見。ここで情報を入手しよう。

 

 店に入ると、十五歳前後の女性が現れた。生育がいいのか、胸は大きめだった。スレンダーに悩んでいたものからすれば、羨ましい限りだった。

 

「はじめまして。お助け屋を営んでいる、マリアといいます」

 

 気さくな女性だ。これなら気軽に話せるのではなかろうか。

 

「ここはどうなっているのですか」

 

「現実世界で過労死した人間のみで形成されています」

 

 私と同じように死んでいった人間ばかりが集まっているのか。ちょっとだけ親近感を覚えた。

 

「生活をしていくためには、どうしたらいいですか」

 

 マリアという女性は人差し指を左右に動かした。

 

「労働することです。働かなければ、お金を入手することはできません」

 

 これでは現実世界と一緒ではないか。アヤカはのんびりとできる空間を求めていただけに、ショックを隠せなかった。

 

「一日平均で一時間働けば、十分に生活できます。現実世界のように、一日八時間も労働する必要はありません」

 

 緑の村は過労死しないことを念頭に置いているようだ。

 

「他には洞窟の敵を倒す方法もあります。プレイヤーとなって敵を倒せば、大金を入手できます」

 

 お金稼ぎにRPGの要素も詰め込まれているのか。緑の村にはそのような要素はないと思っていた。

 

「洞窟はリスクが高いです。HPが0になった瞬間、魂を吸われることになります」

 

 死んでしまったら、復活することはできないのか。楽にお金を稼げる反面、シビアな一面を持ち合わせている。

 

「大金を得ようとしなければ、命を取られるようなことはありません。雑魚だけを倒して、生計を立てている人もいます」

 

 最低限の生活をするだけなら、現実世界よりも遥かに楽なようだ。

 

 マリアはセンサーをおでこにかざす。

 

「洞窟に入る前に、レベルを確かめましょう」

 

 敵を一体も倒していないのだから、レベル1であるはず。レベルが上がっていたら、世界の常識を疑う。

 

 ピピピピピという音が3回ほどした後、マリアはモニターを見ていた。レベルが書いてあるものと思われる。

 

「アヤカさんはレベル90になっています。緑の村では最強クラスの強さです」

 

 敵を一体も倒していないにもかかわらず、レベル90なのか。レベル測定のマシンが壊れているのではないのか。

 

 マリアはレベルを見ても、驚いた表情を見せなかった。

 

「レベルについては現実世界の過労度によって決まります。アヤカさんは働きづめだったために、このような数値になったのでしょう」

 

 365日*21時間*6年間=45990時間となる。フルタイム勤務の人が240*8=1920時間くらいなので、通常の人の24年分も働いている。1年換算にして、他の人の4倍も労働すれば、過労死するのは避けられない。

 

「以前に一日一八時間。年の休みは20日で二年間働いたという人がいました。その方はレベル30でしたね」

 

 レベルの基準がおかしくないか。アヤカほどではないとはいえ、その人も立派な労働基準法違反だ。

 

「これだけのレベルがあれば、ボスを倒すこともできるでしょう。他の冒険者よりも、楽にお金稼ぎができます」

 

 お金を稼げることを知り、ほっと一息をついた。食べ物を入手できないまま、餓死する展開は避けられそうだ。

 

「レベルが高くとも、油断は禁物です。HPが0になれば、魂を抜かれます」

 

 アヤカは生活できるだけのお金でいい。命を落としてまで、戦闘をするのは嫌だ。

 

 マリアの白目が剝かれていた。驚くようなことがあったのだろうか。

 

「スキルで無限復活、異常防止を取得しています。どのようにしたら、そのスキルを取得できるのですか」

 

 現実世界でゾンビのように働いてきた。そのことを鑑みたスキルなのかもしれない。

 

「アヤカ様は無敵です。冒険で死ぬようなことはありません」

 

 お金を無限に稼げるというわけか。この世界では、楽に生きることができそうだ。

 

文章:陰と陽

 

画像提供元 https://foter.com/f6/photo/3226370009/9a1f5928d3/

 

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