コラム

小説:『自分の道(7)』

前回まで

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前回からの続き

 

誤解

 浩紀とデートの待ち合わせをしていると、偶発的に幼馴染と遭遇することになった。

「琢磨、どうしたの」

 名字で呼ばないといけないと分かっていても、無意識のうちに下の名前で呼んでしまっている。長年かけて身に着けた習慣というのは簡単に変えられない。

「偶然、ここを通りかかったんだ」

 佳純は周囲に気を配った。幼馴染と一緒にいるところを目撃されたら、なにをいわれたものかわかったものじゃない。

 幼馴染は身長が伸びていた。昨年までは179センチといっていたけど、現状は180センチを超えているのではなかろうか。高校三年生になっても、背は高くなるんだなと思った。

 身長は伸びているにもかかわらず、全体像は小さく見えた。琢磨の心境を表しているのを感じさせた。

 琢磨はこちらの瞳を覗いてきた。一年前なら喜んでいたところだけど、現在はセクハラをされているような心境だった。一刻も早くやめてほしい

「佳純、しばらく見ない間に綺麗になったな」

 褒められたにもかかわらず、負の感情が沸き上がってきた。路上でなかったら、うっとうしい、気持ち悪い、変態男と叫んでいたのではなかろうか。

 裏切り者と話をしても、ストレスをためるだけ。佳純は現在の状況を話すことにした。 

「倉橋さん、彼氏を待たせてあるの」

 琢磨は交際していることを想定していなかったのか、目の玉が飛び出しそうになっていた。

「佳純、交際をスタートさせたのか」

 距離が離れてしまえば、相手の事情を知る機会は自然と少なくなる。琢磨が交際していた事実を知らないのも無理はない。

 佳純は視線を合わせることなく、事実だけを簡潔に伝える。周囲には赤の他人であるということを発したい。

「うん。同級生と交際することになった」

 琢磨は衝撃が大きかったのか、次の言葉を発することはできなかった。こいつなんかが交際できるはずはないと思っているのなら、たっぷりとお灸をすえてやらねばなるまい。

 彼氏との待ち合わせ場所にいるのに、なかなか離れようとしない幼馴染。佳純の人生はどうなっても構わないのかな。女性を傷つけても平然でいられる冷酷さを備えているから、誰かの交際を邪魔するくらいは何とも思っていなくとも不思議はない。

 佳純は自分でも驚くくらい、冷たい言葉を投げかけていた。同じ女性である、麻衣を傷つけた恨みも詰め込んだ。

「大切な人と待ち合わせをしているの。部外者はとっとと消えてくれない」

 幼馴染として一緒に過ごしてきたときに、戻ることはもうない。時間の流れは前に進み続ける。

「佳純、冷たすぎやしないか。袂をわかつことになったものの、これまでの関係を清算する必要があるのか」

 関係を清算させるきっかけをつくったのは、琢磨ではないか。頭がおかしくなってしまったのだろうか。

「その言葉をそのままお返しするわ。琢磨は一緒に過ごした一〇年間よりも、白石さんとの交際を優先させたうえ、連絡をしないように釘を刺してきたよね。どんなことをいったとしても、その事実は消えることはないよ」

 現実社会においては、一〇〇の言葉よりも、一の事実の方がずっと意味を持つ。どのような思いを持っているかは、一ミリも考慮されない。

「他人は苦しんでも構わないけど、自分は苦しみたくないんだ。あんたってどこまでも最低な男だね」

 幼馴染の交際時の対応は絶対に許せない。あの世に旅立ったとしても、消えることはないだろう。

「邪魔者はとっとと消えてくれないかな。あんたとは二度と会いたくない」

 邪魔者と突き放してしまうのは、一年前では考えられなかった。琢磨に冷たくあしらわれたことで、愛情のすべてが憎しみに変換されてしまった。

 幼馴染と突き放そうとしていると、待ち合わせ相手である浩紀がやってきた。約束していた時刻より、十五分ほど早かった。

「浩紀・・・・・・」 

 琢磨と一緒にいることで誤解されなければいいけど。佳純は一縷の望みに託したものの、そういう展開にはならなかった。

「佳純は、倉橋君とちょくちょく会っているんだね」

「たまたま会っただけだよ」

 浩紀は腑に落ちない表情をしていた。待ち合わせをしたのではないかと、疑いの眼差しを送ってきた。

「この男とは関係はないよ。デートに行きましょう」

 彼氏の瞳は淀んでいた。佳純はこの時点で、未来が見えるような気がしてならなかった。

 

次回へ続く

 

文章:陰と陽

 

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