コラム

小説:『君と共に生きられたら 上』

 

第1章 : 僕が生きるのを諦めた理由

 

僕、足立優太は人とのコミュニケーションを取ることが下手だった。

それは、幼稚園の時からだった。

一生懸命伝えても伝わらないことが多かった。

小学校に上がってからも“それ”は続き、馬鹿にされることが多かった。

友達と呼べる存在は1人もいなかった。

優太の父、足立友希は優太が6歳の時、交通事故で他界していた。

それ以来、母の足立和江は女手一つで優太を育てていた。

だから、母の和江に心配をかけないように学校でのことを話せなかった。

でも、小学校高学年になってコミュニケーションの差は、ますます目立つようになってきた。

そして、クラスメイトの同級生から叩かれたり、蹴られたりした。

それは毎日続いた。

それでも、学校は行き続けた。

母の和江に心配をかけたくなかったからだ。

優太はこのころから思うようになった。

“自分がこの世界で生きていて良いのだろうか?

いや、生きるのをやめたい“

毎日、同級生から叩かれ、蹴られる日々。

家に帰っても明るく振舞い、お風呂の時はバスタオルを全身に巻いて入らなければいけない。

そんな生活に嫌気がさした。

 

第2章 : 初めての自殺未遂と竜一

 

中学生に上がってからも叩かれて蹴られる状況は変わらなかった。

そんなある日、学校の帰りにある朝越川に飛び込んだ。

自殺するつもりだった。

でも、川を通りがかった人が救急車を呼んだ。

そしてすぐに救急車が来た。

そして、優太は助けられた。

意識はあった。

そして5分後、大学病院に搬送された。

そして診察が終わり、2週間入院するように言われた。

最後に診察を担当した先生が「もうこんなことしたらだめだよ」とだけ言った。

車椅子に乗せられた優太が担当の看護師に後ろを押してもらって診察室を後にした。

すると、待合室に母の和江が待っていた。

「優ちゃん」和江は優太の手を取って泣いた。

「お母様ですか?」看護師が言う。

「はい」和江が答える。

「後で先生からお話があります。

一度部屋まで来てもらって2番診察室へ来てください」

「分かりました。」

そして、エレベーターに乗り、5階で降りた。

そして、歩いて505号室の前で止まり、扉を開けた。

4人部屋だった。

手前の右側に男の子がいた。

「こんにちは」

その男の子は、頭にかわいい毛編みの帽子をかぶり、とても明るく笑顔で挨拶した。

「こんにちは、竜一君」

看護師が答える。

「お兄ちゃん、病気なの?」

「大丈夫よ。少しケガしただけなの。」

「そうなんだ。

じゃあ、治るんだね。」

「そうだよ。」

「看護師さん。僕、いつになったら退院できる?」

「もう少し、点滴とお薬飲むことを頑張ったらね。」

「分かった。僕、頑張る。」

そして、優太は手前の左側のベッドに入院する事となった。

「お兄ちゃん、名前なに?」

「足立 優太」と答えると、「優太お兄ちゃん」と明るく笑顔で竜一は言った。

それから、竜一は優太に毎日話しかけた。

母の和江も仕事は休めなかったので毎晩、優太に会いに来た。

竜一の母は、夕方6時に来て7時に帰ることが多かった。

そして、入院生活6日目がたったある日、夜7時半に優太がトイレに向かうと、トイレ横の休憩所に竜一のお母さんが泣いていた。

その泣き方を見て、優太は思わず声をかけた。

「大丈夫ですか?僕、竜一君と同じ部屋の足立です。」

「ごめんね。大丈夫だから。」

「でも、大丈夫なようには見えません。僕なんかで良かったら話して下さい。

それとも看護師さんの方が良いですか?」

少しでも楽になれるんじゃないか。

そう、思った。

「ごめんね。有難う。そしたら、聞いてもらおうかな。竜一ね、ガンなの。

小児ガンっていう病気なのね。今打っている点滴と飲んでいる薬が効かなくなって、今日の検査で再発していたの。

これ以上、点滴の量も飲んでいる薬の量も増やすことができなくって。先生からは余命1ヶ月と言われているの。

あの子になんていったらいいか。」

優太も言葉を失った。

あれだけ明るく笑顔だった竜一が小児ガンで余命1ヶ月だなんて。

「嘘だ。」優太は言った。

「嘘じゃないの。」竜一のお母さんは言った。

「どうして僕みたいな人間が生き残らないといけないんだ。どうして明るくていつも前向きで笑顔の竜一君が苦しまないといけないんだ。僕の方が生きる価値なんかない。」

「そんなこと言わないで。足立君、人生とはパズルみたいなものよ。1つ1つの出来事が1つ1つのピースね。そして1つの“自分だけのパズル”を完成させるの。足立君はまだまだパズルを完成させていないよね。なぜなら、足立君はまだ若い。これからもっと色んな経験をすると思う。その中の良い経験も悪い経験も1つ1つの大切なピースなんだよね。そして、優太君だけのパズルを完成させて欲しいな。あの子のパズルのピースは、幼稚園でお友達とお話できたこと、入院中の病室でたくさんの患者さんと話せたことなの。それだけでもあの子からしたらかけがえのない1つ1つのピースなの。あの子は途中までしか完成させられない。でも、足立君は完成させられると信じてる。」

長く話してくれた。

“良い経験も悪い経験も大切な1つのピース。そうだ、僕が叩かれて蹴られたのも大切な1つのピースなんだ。”

「有難うございます。僕、竜一君に何かあっても、竜一君のこと絶対に忘れません。こんな話をしてしまってごめんなさい。僕、学校で友達いなかったんです。でも、竜一君は僕のことを優太お兄ちゃんと呼んで慕ってくれました。それだけじゃないです。いつも笑顔で明るくて前向きな姿に救われました。だから、今度は竜一君に恩返ししたいです。竜一君は、僕にとってかけがえのない“友達”です。」

「何かあることは仕方のないことだから。有難う。あの子にその事言ってあげてくれない?入院続きで友達って呼べる友達がいないの。」

「お母さん、もう1ついいですか。僕、退院してからも会いにきてもいいですか?」

「でも、学校があるんじゃない。」

「学校帰りに寄ります。友達との時間を大切にしたいから。」

「そう。有難う。今日は、有難う。」

「こちらこそ、竜一君の話とパズルの話、有難うございます。」

そして、部屋に帰った。

8時になっていた。

和江は座っていた。

「優ちゃん、どこ行ってたの。とにかく良かった。もう8時だから帰るね。」

そう言うと、和江は部屋を後にした。

「竜一君、僕竜一君に友達になって欲しいです。」優太は不安になった。

“ちゃんと伝わっているのだろうか。”

すると、竜一は笑顔で「優太お兄ちゃんお友達になってくれるの?」と喜んでくれた。

その一言で、僕の不安は拭えた。

僕だって話せるんだ。

優太は、初めて“自信”を持てたような気がした。

 

次回へ続く

 

文章:緑川 翠

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